臨界期に脳に適当な刺激を~慈性幸佑
脳の発達の仕組みや可塑性を動物実験で解明することにより、赤ちゃんの健やかな発達や発達障害の軽減に役立てることができます。
生後5-7週のネコの片目を約2週間遮蔽(しゃへい)すると、大脳皮質視覚野が閉じた目に対する反応を失い、見えなくなってしまうことが知られています。
遮蔽する時期を替えることにより、この変化が生後発達の一時期にだけ起こることも分かります。
これはネコだけでなく、人の視覚機能も同じです。
最近研究では、言語習得や学習などの高次の脳機能の発達でも同様の変化があることが分かってきました。
これは脳の発達期にはシナプス競合があるためと考えられます。
それでは、どういうメカニズムでそういう変化が起こるのでしょうか。
片目を遮断するとその目から入力を受けている大脳皮質視覚野の眼優位コラムが縮小します。
ところが生後間もないネコに脳由来神経栄養因子(BDNF)を慢性的に投与すると再び拡大します。
大人のネコではこのような現象は起こりません。
開いている方の目から刺激を受けている部分はBDNFがたくさん出て拡大するが、閉じたほうは萎縮(いしゅく)してしまうのです。
ではその原因となるBDNFはどこから来るのでしょうか。
BDNFの動きを観察するため、BDNFを生み出す遺伝子に緑色の蛍光タンパク質を生み出す遺伝子を連携させ、ラットの大脳皮質に投与しました。
すると、BDNFはシナプス後細胞に移行してシナプス後細胞の発達を促します。
アクティブなニューロンが、たくさんのBDNFを受け取る結果として発達することが分かりました。
つまり、神経細胞のアクティビテイーが神経回路、脳の発達を促進する因子といえるのです。
このような動物実験の結果から臨界期と呼ばれる時期に脳に適当な刺激が入ることが重要と考えられます。
刺激により神経細胞が活性化され、BDNF因子が出ることが神経細胞の発達に重要だということが分かります。
慈性幸佑